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ゲームのマルチプラットフォーム展開にまつわる、良いこと、つらいこと、すばらしいこと ― Nintendo Switch の事例も紹介

2021年5月4日 カテゴリ: ゲーム | 5 分 で読めます
Person with bald head, wearing a striped outfit is running around a room. The still is taken from a game. The whole image is been made to look grey and faded.
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FPS マルチプレイヤー、オープンワールド RPG、アドベンチャーパズルなど、どんなジャンルのゲームを開発するにしても、開発者としてプレイヤーにダイナミックで魅力的な体験を提供したいということは同じでしょう。モバイルではカジュアルなゲーム、PC では FPS といったように、従来はプラットフォームごとに適するとされるゲームのタイプが異なっていましたが、もはや開発者が自ら制限をかける必要はありません。現在のゲーム体験は複数のプラットフォームにまたがって届けられるようになっており、ユーザーへのリーチも大きく広がっています。 

もちろん、価値のあるものを追究すれば、それ相応の障害も現れてくるものです。マルチプラットフォーム開発もその 1 つです。ゲームのスケーリングや移植のプロセスは、その規模にかかわらず、チームにとって負担となります。しかし、それを経験した多くの開発者が言うように、挑戦に見合った価値のある報酬を得ることができます。全世界で 7,800 万台以上が販売されている Nintendo Switch のように、非常に人気のあるコンソールにゲームを移植することで、ビジネス上のメリットもたくさん生まれます。 

さらに、その過程では絶えず助けを得ることができます。見るべき場所がわかれば、何千もの学習リソースを見つけることができます。そのほとんどが完全に無料で、学ぶための時間さえ取れるなら誰でも利用できます。 

先日、数々の賞を受賞したホラーアクションアドベンチャーパズルゲーム『DARQ』の開発者である Wlad Marhulets 氏にお話を伺うことができました。このゲームは、夢を見ていることをはっきり自覚したまま悪夢の中に身を置く少年ロイドの物語を描いたものです。Marhulets 氏は、マルチな才能を持つソロ開発者で、5 年の間に、初めて発売したタイトルをほとんどの主要なプラットフォームに投入することができました。PC、Xbox One、Xbox Series X、PlayStation 4、PlayStation 5、そして最近は Nintendo Switch にも対応しました。彼の道のりは険しいものでしたが、忍耐と楽観主義、そして堅実なサポートにより、Marhulets 氏は今、ハードウェアの枠を超えて、世界中の多くの人々と自分の作品を共有することから得られる満足感と達成感を確かに味わっています。

彼の物語は 1 本のソフトウェアをダウンロードしたところから始まりました。 

この記事では、『DARQ』の開発者に、マルチプラットフォームへの対応について語ってもらった内容をご紹介します。

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  • DARQ』をリリースするにあたって抱いていた目標についてお聞かせください。最初からマルチプラットフォームでの展開を想定していたのでしょうか?

    • 私がゲーム開発を始めたのは、大学を卒業したばかりの 2015 年末、映像制作者としてのキャリアが始まったばかりの頃でした。あるとき、映画の仕事の合間に 1 か月の休みがあったので、新しい趣味をやってみようと思ったのです。ゲーム作りについて何も知らないまま、Unity をダウンロードして、すぐにゲーム開発が好きになりました。その 1 か月後には、今の『DARQ』とは似ても似つかない小さなプロトタイプができあがりました。友人に勧められて、トレーラーを作って Steam Greenlight にアップロードしました。あまり期待はしていませんでしたが、Greenlight で『DARQ』が最も投票されたタイトルのトップ 10 に入ったとき、私は自分の趣味を仕事にしよう、少なくともやってみようと思いました。当時はコンソールでの発売を考えていませんでしたし、そもそもどのプラットフォームでもゲームを作れるかどうかもわかりませんでした。すべてを 1 から学ばなければなりませんでしたが、その過程がとても楽しかったです。

    • このゲームの制作には 3 年半以上かかりました。その間、複数のパブリッシャーが手を差し伸べてくれましたが、どのパブリッシャーもぴったりとは思えませんでした。私は 2019 年に『DARQ』を自費で発売することを決めましたが、これは PC ユーザーを念頭に置いたものでした。そして 2020 年になって『DARQ』をコンソールで発売する上で適切なパートナーたりうるパブリッシャーと出会うことができました。現在、『DARQ』は PC のほか、Nintendo Switch、PS5、PS4、Xbox Series X・S、Xbox One 向けに発売されています。パッケージ版のリリースももうすぐです。 

 

  • Unity を選んだ理由を教えてください。

    • 私がゲーム開発に携わるようになった頃、『A Cat's Manor』というインディーズゲームの音楽を担当し、その開発の裏側を見ることができました。あのようなクオリティの高いゲームが、たった 1 人で開発できることに驚きました。私の記憶が正しければ、Unity を知ったのはその時です。『DARQ』の開発を始めてからは、Unity の公式サイトに掲載されている充実したプログラミングチュートリアルや、必要に応じて質問に答えてくれるフレンドリーな開発者たちの巨大なコミュニティの存在が非常にありがたかったです。現在、私は 2 作目のゲームを大規模なチームで制作していますが、ここでも Unity を使用しているのは言うまでもありません。私はこれ以上ないほどにこのエンジンに入れ込んでいます。文字通り、私の人生を変えてくれたものですから。

 

  • マルチプラットフォーム向け開発で苦労した点はありますか。

    • 技術的な課題以外のところで、世界的なパンデミックの最中に、3 つの異なるタイムゾーンをまたいでリモートで作業していたことがまず大きかったです。ポーランド、フィンランド、カリフォルニアにチームがあるため、効率的にコミュニケーションをとる方法を見つけなければなりませんでした。私たちは Slack を使ってチャットでコミュニケーションをとり、ゲーム開発の進捗状況を全員に伝えました。

    • すべてのプラットフォームでゲームの見た目を統一するという課題にも直面しました。なぜなら、すべてのプラットフォームでレンダリングの処理が少しずつ異なるからです。最終的には、明るさ、コントラスト、彩度、色合い、場合によってはライティングを手動で調整する必要がありました。また、浮動小数点数の精度に関連したレンダリングの不具合がいくつか発生しました。例えば、クワッドをわずかな隙間を空けて重ねると、PC では正しく表示されますが、コンソールではちらつきが生じます。この問題を解決するために、オブジェクトの位置をわずかに変えなければならない場合もありました。 

 

  • なぜ Nintendo Switch での発売を決めたのでしょうか。

    • Switch は『DARQ』ファンの間で最も要望の多かったプラットフォームだったので。これは簡単に決断できました。また、Switch は私のお気に入りのゲーム機であることも大きかったです。『DARQ』が私の Switch ライブラリに登場するなんて、夢のようなことです。 

 

  • Nintendo Switch への移植で経験したことを教えていただけますか。

    • DARQ』では、リアルタイムのボリューメトリックライティング、無数の FMOD(サウンドミドルウェア)オーディオイベントを利用したリッチなサウンドデザイン、インバースキネマティクス、読み込みに時間がかかる大規模なプレハブなどが使用されています。これらのシステムは、ゲーミング PC では目立ったパフォーマンスの問題を引き起こさないかもしれませんが、Nintendo Switch で『DARQ』をスムーズに動作させるためには、頭をフル回転させて最適化のやり方を考える必要がありました。Switch への移植では、大きくゲームの内容を変えることなく、ゲーム全体を通して安定したフレームレート(毎秒 30 フレーム以上)を達成することが主な課題でした。特に描画コストの高いボリューメトリックライティングとシャドウキャスターの最適化には最も時間をかけたと思います。また、非常に多くの FMOD のイベントインスタンスが同時に発生したために、オーディオの不具合がいくつか発生しました。ゲームプレイに関して、小さな画面ではうまく読めないパズルもあり、ゲームの中でカメラアングルを調整した箇所がいくつかありました。UI についても同様です。小さな画面でも読みやすいように、アイコンやテキストのサイズを変更する必要がありました。最後に、Switch 版では操作方法を変更しました。アクションを起こすボタンを A ボタンにマッピングするという Switch の慣習に沿ったものにしたかったのです。

 

  • これらの課題をどのように克服したのでしょうか。

    • 私が直接関わった作業の 1 つに、必要のないシャドウキャスターとボリューメトリックライトのリストの作成がありました。最終的には、シャドウキャスターとボリューメトリックライトを、目立たないように約 25%削減することができました。また、FMOD の足音を鳴らすシステムを完全に再設計し、システムの動作に必要なイベントインスタンスとオーディオチャンネルの数を減らしました。さらにオーディオの最適化も行い、複数のオーディオトラックを含んでいた一部のイベントを 1 つのトラックにまとめました。インバースキネマティクスの使用について、以前はフレームごとにシステムを実行していました。これも、PC ではそれほど大きな違いを生み出しませんでしたが、Switch ではハードウェアを最大限に活用し、できるだけ妥協しないようにしました。大きなプレハブ(ステージ)については、非同期読み込みを実装し、それに合わせて動くプログレスバーも作りました。こういった小さなことに加えて、テクスチャアトラスの解像度を下げることで、大幅なパフォーマンスの向上を実現しました。 

 

  • Nintendo Switch への移植で、特に強調したい技術的な成果はありますか。

    • 数々の最適化作業により、リアルタイムの光源やシャドウキャスターを駆使しつつ、『DARQ』を Switch で動かすことができたのは、とても素晴らしいことだと思います。また、ジオメトリには一切手を加えていないことも特筆すべき点です。『DARQ』は、その作り込まれた 3D 環境で知られています。当初は、ゲーム内のほとんどのモデルのポリゴン数を減らす必要があると思っていましたが、その必要はありませんでした。最終的にモデルの詳細度をまったく変えずに済んだのです。私たちはいろいろなプラットフォームに『DARQ』を移植してきましたが、Nintendo Switch 版は最適化の面で特に優れていると思います。

 

  • Nintendo Switch への移植を検討している他のスタジオに伝えたい推奨事項や教訓があれば教えてください。

    • 1 つ目はコードを理にかなった方法で構成することです。プロジェクト全体で命名規則の一貫性を保つようにしましょう。ゲームのコーディング方法に一貫性がないと、プロジェクトの移植が難しくなります。大規模なプロジェクトでは、複数のプログラマーが参加し、統一されたコーディングスタイルが確立されていないことがよくあります。また、エディターでどのシーンを開いていてもゲームが動作するようにしてください。これにより、プロジェクトを移植する人の負担が軽減されます。コードにはコメントを付けるべきですが、付けすぎてもいけません。自己説明的なクラス名、メソッド名、インターフェイス名を使用すれば、ほとんどの場合コメントは不要になり、開発のスピードアップにつながります。何千行ものコードで構成されるモノリスクラスは避けましょう。コードを論理的に分割し、「スパゲッティコード」と呼ばれるような依存関係ができないようにしましょう。

    • 2 つ目は、プロファイラーを使ってテクスチャメモリに気を配ることです。テクスチャアトラスを使用し、オブジェクトができるだけマテリアルを共有するようにしましょう。これにより、ドローコールの回数を減らすことができます。1 秒間あたりのフレーム数にこだわる場面では、これは特に重要です。

    • 3 つ目は、Nintendo Switch のような携帯端末は比較的小さいことを忘れずに、そのことを考慮した UI をデザインするということです。もともと PC 向けに開発されたゲームの場合、読みやすくするためにフォントや UI 要素のサイズを変更する必要があるかもしれません。これは私たちが Switch への移植の際に行ったことでもあります。 

 

  • 過去を変えられるとしたら、何を変えたいですか。

    • もっと早く Unity をダウンロードしたかった。これに尽きます。真面目な話、自分はとても幸運だなあと思いつつ、これは夢じゃないかと毎日ほっぺをつねっています。これまでに多くの失敗をしてきましたが、後悔はしていませんし、貴重な教訓にもなっています。『DARQ』が『The Last of Us Part II』、『Death Stranding』、『Borderlands 3』、『Call of Duty: Modern Warfare』など、AAA タイトルと並んで賞にノミネートされ、実際にいくつかの賞を受賞することになるとは、夢にも思っていませんでした。私の子供時代のヒーローである小島秀夫監督に賞をもっていかれたことは、私の人生の中で最も名誉なことの 1 つです。また、『DARQ』の成功に貢献してくれた数多くの人にも感謝しなければなりません。名前を挙げればキリがありませんが、特に初期の頃から私の開発を支えてくれた Unity のチーム、Scott Millard 氏(Feardemic のマネージングディレクター)、Piotr Babieno 氏(Feardemic の親会社 Bloober Team の CEO)、および Joni Lappalainen 氏(Dreamloop Games の CEO)に感謝の言葉を申し上げます。

 

より高度なサポートを行うために、Unity の Accelerate Solutions チームは、あらゆる規模のスタジオが目標を達成できるよう、さまざまなパッケージを提供しています。パフォーマンスの最適化に関するコンサルティングから、安定性の向上、移植に関する専門知識まで、私たちのコンサルティングチームは、あらゆるプロジェクトにおいて、プロジェクトの障害となっている要因や、プロジェクトを完成させるために必要なステップを特定することができます。Accelerate Solutions チームは、Unity でも最も熟練度の高いエンジニアで構成されており、クリエイターの皆さんがゲームの創造的な部分に集中できるように、皆さんのチームと共に、プロジェクトを最初から最後まで遂行する体制を整えています。 

 

Nintendo Switch への移植についてより詳しく知りたい方は、Unity の e ブック「Five mistakes to avoid when porting your game to Nintendo Switch」(英語)をご覧ください。

 

その他、Unity のフォーラムでは、他の開発者からヒントや有益な情報を得ることができます。また、Wlad Marhulets 氏の著書『GAMEDEV: 10 Steps to Making Your First Game Successful』も参考になります。

インタビューの質問への回答は Wlad Marhulets 氏自身によるものです。

2021年5月4日 カテゴリ: ゲーム | 5 分 で読めます

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