バンクーバーを拠点とするインディースタジオで、近日発売予定のオープンワールド型農業ゲーム『Aka』を開発したCosmo Gatto 社は、今年の gamescom で Indie CommUnity Choice Award を受賞しました。『Aka』へとつながったインスピレーションや、ゲームコミュニティの注目を集めた経緯について、同スタジオのリード開発者である Namra さんにインタビューしました。
本日はお時間をいただきありがとうございます。そして、gamescom での CommUnity Choice Award 受賞、おめでとうございます!今回の受賞を知った時、どのようなお気持ちでしたか。
超嬉しかったです!面白いことに、Neowiz 社にいるパブリッシャーから「お知らせがあります」とメッセージが来たんです。良い知らせなのか悪い知らせなのかわからなかったのですが、「本当に良いことなんだ」と言われました。だから、ワクワクしたのと同時に、自分が gamescom に参加して賞を受けられないのは申し訳ないという気持ちもあったんです。開発者として、私たちのゲームが誰かの興味を引くかどうかを常に考えているので、『Aka』が受賞したことは実に素晴らしいことでした。
読者の皆さんに、ご自身と Cosmo Gatto 社のことを少し教えていただけませんか。『Aka』はどのようにして生まれたのでしょうか。
数年前に、私 1 人だけが開発者という体制でゲーム開発をスタートしました。 以前、私は 10 年以上アニメーション業界にいて、モントリオールの Nordelec ビルで仕事をしていたのですが、その時に Unity のロゴを見ました。頭の中では、「あ、これ知ってるかも!」という感じでした。そこで、Unity をダウンロードして試してみたところ、とても気に入りました。
当時は映画製作に励んでいましたが、COVID が広がったことで、私の人生にもいろいろな変化がありました。いきなり一人ぼっちで家に引きこもることになってしまったので、ゲーム開発の世界に飛び込むことにしたんです。何度かゲームジャムをやって自信もついてきたところで、『Aka』に取り組み始めました。
Twitter で何度か投稿をシェアしたところ、Neowiz 社から連絡がありました。『Aka』がもう少し大きなものになる可能性を感じた段階で、Mad Mimic 社と一緒に仕事をすることにしましたので、今ではもう一人ではありません。Felipe Carmona 氏、Evandro Bustamante 氏、Marc-Antoine Desbiens 氏がこのプロジェクトに協力してくれています。
『Aka』からはさまざまなインスピレーションを得ることができます。表面的にはかわいいゲームなのですが、主人公は元兵士で、荒廃した世界を再建しようとしている…その裏には哀愁が漂っています。幽霊、ドラゴン、カピバラ、パーマカルチャー......これらはどのように生まれ、どのように進化してきたのでしょうか。
先ほども言いましたが、私はゲームジャムをやっていました。私はあちこちに物を作るのがとても好きで、ある時、ミニゲームを集めたようなゲームがあったら素敵だなと思ったんです。いろいろなことができるよう小さなオープンワールドを作りたいというアイデアが、すべての始まりだったと思います。
それから哀愁を感じさせるという話ですが、実際にそうです。私が強くインスピレーションを受けたのは、スタジオジブリの映画『平成狸合戦ぽんぽこ』です。多くのジブリ作品がそうであるように、表面的にはかわいらしく見えますが、そこにはメッセージが込められているのです。悲しくて、テーマがすごく重いんですけど、『Aka』はメタファーとして見ることもできると思います。戦争を経験して、今は新しいもの、つまりより良い生活を築こうとしています。
パーマカルチャーについては......農業ゲームはたくさんあって、それはそれで素晴らしいと思うのですが、このジャンルに何か新しいアイデアを取り入れたいと思いました。『Aka』では、自分の領土を広げたり、できるだけ大きな農場を持とうとするのではなく、自分の小さな敷地の面倒を見るだけのゲームを作ったら面白いのではないかと思いました。異なるものを一緒に植えることで、有益な効果が得られるという仕組みがあるんです。例えば、植物にはクロバエがつくことがありますが、クロバエを撃退できる植物もあるので、その 2 つを一緒に植えるといいかもしれない。この考え方がベースになっています。
『Stardew Valley』や『Harvest Moon』のような他の農業ゲームではお金のことを考えなければなりません。資本主義的な側面があるんですね。『Aka』では、お金がなかったらどうなるんだ、と言いたかったんです。このゲームで、資本主義的なやり方で世界を変えることはできません。例えば、木を全部切ってしまうことはできません。動植物を復活させ、今いる環境を受け入れることがポイントです。
『Stardew Valley』から『Dinkum』まで、農業シムや落ち着いた「日常の何気ない一面を切り取った」ゲームが本当に次から次へと出てきています。その人気の理由は何だと思いますか。なぜ、このジャンルを選んだのですか。
今、癒し系ゲームというのが話題になっていますね。私は、私たちが生きているこの瞬間が本当に好きなんです。長年、テレビゲームといえば、格闘や冒険といったイメージに結び付けられていました。現在、癒し系ゲームが普及しているのは、ゲームを遊ぶ人たちが「あ、テレビゲームって、モンスターや人と戦う以外にも何かできるんだ」ということに気づいているからだと思います。
『Stardew Valley』が評判を得たので、多くのゲームに農業システムが組み込まれるようになったのはほぼ間違いないと思うんです。とはいえ、プレイヤーは特定のタイプの農業システムにあまり執着していないと思うんです。今後、これに関してより多くの試みが見られることを期待しています。
『Aka』のビジュアルスタイルに影響を与えたものは何ですか。
先ほども言いましたが、私が一番影響を受けたのはスタジオジブリです。最初からアニメ映画のようなゲームができたらかっこいいなと思っていたので、ドット絵は選びませんでした。開発のごく初期はローポリゴンスタイルに傾倒していましたが、最終的には手描きの方が珍しいということでそちらに方向転換しました。
技術的な面では、Rebelle というソフトウェアがとても気に入っています。水彩画や「古い絵」のような風合いを再現・模倣することができます。
これからゲームを始める開発者に向けて、作るゲームに注目を集めたり、適切なオーディエンスを見つけたりする上でのアドバイスをお願いします。
私が開発を始めた頃、Twitter で注目を集める方法について書かれた記事をいくつか読みました。プレイヤーや他の開発者は、自分のゲームをよく表現しているアニメーション GIF や動画を見たいと思うはずです。たくさん投稿するよりも、週に 1 回くらい、ちょっと少ないくらいに、でも本当にいいものを投稿したほうがいいと思います。特に Twitter では、投稿すると本当にすぐに指数関数的にリーチが伸びます。たとえ 1 本の動画でも、十分にシェアされれば、変化をもたらすことができます。
Twitter をおすすめする最大の理由は、他のゲーム開発者やパブリッシャーなど、同業の人たちとつながることができるからです。少なくとも私にとっては、これがプレイヤーとつながるための最良の方法であるかどうかは、まったくわかりません。また、使用するハッシュタグにもよります。#gamedev や #indiegames といったハッシュタグをつけておけば、当然、他の開発者から見られることも多くなります。
また、自分の仕事に正直に取り組んでみてくださいと言いたいです。人気のあるものをやろうとしている人がいると、それがわかると思うんです。インディーゲームの場合、ニッチなものが多いので、自分が好きなものをとことん掘り下げれば、他の人もきっと好きになってくれるはずです。
『Aka』の進化にTwitterが果たした役割がわかるように、Namra さんは彼がした中で最も人気のあるツイートのいくつかを、その舞台裏とともに紹介してくれました。
「初めてバズったツイートの 1 つです。キャラクターデザイン、グラフィックが良かったからだと思います。」
「カピバラの上で昼寝ができます。プレイヤーからは『これを目玉にすべきだ!』という声もありました。」
「このおかしな投稿がなぜか人気になりました。」
『Aka』とは大幅に異なるゲームである『Lies of P』 も出している Neowiz 社と共同開発されています。どのような経緯で一緒に仕事をすることになったのでしょうか。
『Skul: The Hero Slayer』をプレイしていたので、Neowiz 社のことは知っていました。Neowiz 社の Steam のページに行くと、彼らの出しているのは『SANABI』のようなハイスピードなアクションゲームがほとんどでした。最初に彼らに会った時に「御社が私のゲームに興味を持つなんておかしくないですか」と聞いてみたところ、「『Cat and Soup』のような癒し系ゲームも前に出していますよ」と言われました。私が思っていたより守備範囲が広かったんですね。
このゲームのパブリッシャーを見た人は驚くことでしょう。戦争などをテーマにした、暴力表現のかなりあるゲームを出すパブリッシャーから声がかかったのですから。パブリッシャーにゲームを売り込むなら、その会社の方針に合うかどうかを確認する必要がありますよね。面白いことに、私はその逆のことをいつも聞いていました。パブリッシャーも穏やかなゲームの人気が広がりつつあることを認識していて、シフトし始めているのだと思います。
ゲーム制作の過程で、最も役に立った Unity のツールや機能は何ですか。
もちろん、Cinemachine です。使い込んでいます。これなしでどうやってゲームが作れるのかわからないくらいです。ユニバーサルレンダーパイプライン(URP)も使っていますが、その理由は Nintendo Switch™ で『Aka』を発売することを見据えると、これを使うのが最も簡単な方法だと考えたからです。
島のレベルデザインをするときは ProBuilder ですべて作り、作ったモデルはゲーム内に残してコライダーに使っています。その後、Blender にエクスポートして、最終版のアセットをインポートする前に、より洗練されたモデリングを行います。また、グリッドベースの農業システムには、ProGrids を使っています。
読者の皆さんにシェアできる生産性を上げるためのヒントがあれば教えてください。
1 人で開発を始めるとよく犯す間違いは、すべてが頭の中に入っていて、次々とタスクをこなし、すべてがうまくいくと思ってしまうことだと思うんです。私はこれの対処に苦心しました。
Asana や Trello のようなアセット管理ツールを使うのは有効だと感じました。こうすると、たとえ一人であっても次に何をすべきかを把握することができます。今は他の開発者と一緒に仕事をしているので、スプレッドシートを使って、残作業は何かを管理しています。
また、必要なことを文字通りすべて記載したしっかりとした開発設計書を作ることから始めましょう。確かに手間はかかりますが、長い目で見れば、本当に役に立つと思います。2 週間ごとにこのドキュメントを見直し、更新しています。例えば、もう必要のない機能があるかもしれません。そしてもちろん、アセット管理ツールを使ってスケジュールを把握することも大切です。
『Aka』を制作する上で、最も苦労したことは何ですか。面白いバグやボツになった要素があれば教えてください。
最大のチャレンジは、ゲームジャムのメンタリティーから完成版のゲームを作るメンタリティーに切り替えることだったと思います。小さなゲームを作っているときは、すべてが同じシーンにあり、スクリプトもあちこちにある...しかし、5 分ごとにクラッシュしないようなものをきちんと作らなければならないとなると、まったく別物になってしまうんです。
2 番目に大きなチャレンジは、ゲームの最適化でした。ScriptableObject のような抽象的な考え方は、理解するのに時間がかかりました。ありがたいことに、今は他の開発者と一緒に仕事をしています。彼らの協力がなければ、今あるような『Aka』ができていたかわからないですよ!
プレイヤーの犬に関連するもの凄くくだらないバグがあったんですが、最終的にこれは機能になりました。犬をゲームに入れた当初は、犬がプレイヤーについてくるはずだったのですが、なぜかついてこないことがありました。「犬が階段を使いたがらない」とか Twitter に書いたりしてるうちに、犬にも自由意志があって、プレイヤーにどこまでもついてこないこともあるかもしれないと思うようになりました。
「ついに機能になったバグ。」
つい最近『Aka』の公開プレイテストが開放されました。これまでの経過はいかがでしょうか。
順調です。バグと言えば、滑稽なことに、ゲームがうまく動いていたのに、ベータ版の直前でギリギリの変更を決めてしまうという初心者にありがちなミスを犯してしまいました。これでもっと良くなると思ってやったのですが、かえって台詞がループしてしまうという致命的なバグを発生させてしまいました。最初の数時間は、かなりのストレスでした。
でも、ベータ版は本当に役に立っています。『Aka』のコミュニティは本当に熱心で、約 1,000 人のプレイヤーがテストプレイに参加してくれています。Discord のフォーラムでバグを投稿してもらい、毎日修正をしています。1 週間前と比べても、ゲームの安定性、堅牢性は格段に向上しています。
『Aka』を通して、人々にどんなことを体験してもらいたいですか。
ああ、それはもういろいろです。主な目標は、やや気取った言い方になるかもしれませんが、プレイヤーの生活を少しでも良くすることです。もしかしたら、ストレスの多い一日を過ごしたそんな日に、『Aka』を 2 時間ほどプレイして、楽しいひとときを過ごしてもらえればと思います。本当にそれが最大の目的だと思っています。
開発当初に失敗したことの 1 つに、UI に幸福度を示すバーを表示させたことがあります。そうするとプレイヤーは結局バーに集中し、幸福度を最大化をするためにゲームプレイを最適化してしまうんです。バーを非表示にしたのは、数字を意識せず、ただただ『Aka』を楽しんでもらいたいからです。
温泉に行ったり、作物を植えて楽しんだり、カピバラの上で昼寝をしたり、プレイヤーにゲームにあるものをじっくりと味わってもらえるのは、とてもうれしいです。
『Aka』は PC と Nintendo Switch 向けに年内に発売されます。Steam のウィッシュリストにぜひお入れください。また、@BarthelemeyNamra を Twitter でフォローして、最新情報を入手しましょう。インディーイノベーションハブで、ゲーム業界で活躍する Unity クリエイターを取り上げたストーリーをさらにご覧いただけます。
Nintendo Switch は任天堂の商標です。
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