Schell Games は、数々の賞を受賞した VR 脱出ゲーム『I Expect You To Die』や剣戟格闘ゲーム『Until You Fall』を開発したデザイン・開発スタジオです。このスタジオでは素晴らしい VR 体験を生み出すために、いくつかの Unity ツールが使われています。
話題の続編『I Expect You To Die 2: The Spy and the Liar』の発売に先立ち、チームは VR 開発にまつわる技術的制約のある中で、いかに Unity を活用してこのような没入感のあるエリートスパイ体験を作り上げたか、その舞台裏を紹介してくれました。
『I Expect You To Die 2』は、スパイ活動や陰謀に満ちた 6 つのユニークなミッションでプレイヤーを魅了します。スパイとなって敵中に潜入し、さまざまな危険な場所で狡猾な敵や巧妙なパズルに挑戦することになります。
この数年間で VR は大きく変わりました。そこで、Schell Games のチームはこの成長する業界の流れに乗っていけるような続編を作ることにしました。前作が最初に発売されたのは 2016 年のことでした。同社は、VR 開発における現在のベストプラクティスを取り入れつつ、これまで愛され、敬われてきたオリジナルのルックアンドフィールはそのままに続編を作る方法を追求しました。Schell Games が作品に命を吹き込むためのプロセスと課題を探りながら、その詳細をご紹介していきます。
私たちは、Unity の XR Plug-in Management Framework のように、開発プロセスを合理化し、簡素化するツールの開発に努めています。
「メジャーアップデートは常に厄介なものです。というのも、エンジンに変更を加えると、別の何かが壊れてしまうからです。ソフトウェアとはそういうものなのです」と、『I Expect You To Die 2』のテクニカルディレクターを務める John Kolencheryl 氏は認めます。「プロジェクトの半分を過ぎたら、エンジンのアップグレードを行えるチャンスは相当限られると考えるべきでしょう。」
幸いなことに、XR Plug-in Management Framework により、サードパーティの SDK を独立したモジュールとして Unity にプラグインすることができます。これにより、Schell Games は、サードパーティのベンダーが提供する特定の機能を使うために Unity をアップデートする必要がなくなり、チームは『I Expect You To Die 2』の開発プロセスを効率化し、プロジェクトの安定性を確保することができました。
Schell Games は、Unity のスクリプタブルレンダーパイプライン(SRP)をプロジェクトのニーズに合わせてカスタマイズしました。Kolencheryl 氏は、「ゲームのレンダリング方法をよりコントロールできるようになりました。それにより、グラフィックスエンジニアリングのリーダーである Joe Pasek は、Vulpine というカスタムメイドの社内レンダリングパイプラインを開発し、ゲームのビジュアル面での完成度を高めることができました」と説明します。初代の『I Expect You To Die』と 2 作目を比較すると、カスタムレンダリングパイプラインを作成できたからこそ実現できた違いに気づくでしょう。」
VR 開発の複雑な世界において、Schell Games のようなスタジオは VR 酔いの原因となるものに常に注意を払わなければなりません。Unity の SRP を使うことで、開発チームはビジュアルの描き込まれ方とパフォーマンスの最適なバランスをとることができ、『I Expect You To Die 2』の体験内では、まるで 007 になったようにスムーズに動く世界を見ることができるようになりました。
Schell Games が『I Expect You To Die』の続編でぜひやりたいと考えていたのは、360 度視点のオープニングクレジットシーンでした。Unity に搭載されている Timeline エディターを使って、チームはさまざまなアイデアやペース配分を試し、その他にもいろいろなテストを行うことができました。その結果、『I Expect You To Die 2』のオープニングクレジットに適した組み合わせを効率的に見つけることができました。
VFX アーティストの Jeff Hoffman 氏は、「新しいアニメーショントラックを追加したり移動させたりするだけで、シーンへの反復修正を素早く行ったり、ペースの調整をしたりすることができました」と語ります。「このツールのおかげで、さまざまなアニメーションのタイミングを取ったり、その変更をプレビューしたりすることが非常に簡単になりました。タイムライン上でネイティブにアニメーションのリタイムができるので、微調整の時間が短縮されました。」
また、Timeline エディターでは、特定のシーンに関連するアニメーションアセットをグループ化し、それらを折り畳むことで、イントロのシーンを整理することができます。これは Schell Games にとってイントロシーンをより上手なやり方で整理するために役立ちました。また、タイムライン上のアセットトラックやグループをロックして、誤って変更したり、重複を防いだりもできます。Hoffman 氏は次のように述べています。「この機能は、タイムラインが急速に大きくなっていく中ですべてを同期させる必要があったため、とても重要でした。」
さまざまな入力のためのハードウェアに対応する際には、ゲームのロジックが計画通りに実行されるように細心の注意を払う必要があります。VR は複数のデバイスにまたがって再生されることがあり、それぞれのデバイスに独自のコントローラースキームがあるため、Schell Games はコアとなるゲームプレイと入力ハードウェアの間に入力を抽象化するレイヤーを配置しました。
Unity の新しい入力システムを使って、開発チームは汎用のボタンマッピングを含む汎用の XR コントローラーのスキームを組み上げました。汎用のボタンを入力コントローラーのハードウェアにマッピングする作業はシステムが行ってくれるので、Schell Games は汎用の XR コントローラータイプをリスンするゲームコードあるいはロジックを書くことに集中できます。
「Unity の新しい入力システムは、コントローラーの設定を追加したり調整したりするのに、より使いやすいアプローチを採用しています。複数のコントローラをサポートするために追加のコードを書く必要はなく、代わりにエディターのインターフェースを使って、ボタンをクリックするだけで機能を追加することができました」と Kolencheryl 氏は説明します。「この入力システムによって、入力を抽象化するレイヤーをシンプルにすることができました。これは私たちのプロジェクトにとって大きな収穫でした。」
Oculus Quest のようなスタンドアロンの VR ヘッドセットや、PS4 のようなコンソールは、通常、PC に比べて利用できるメモリの量が限られています。VR 開発者は、ゲームがクラッシュしないように、ゲームがどれだけのメモリを消費するかに注意しなければなりません。
『I Expect You To Die 2』の開発中に、チュートリアルの管理から面白い課題が出てきました。開発者は、プレイヤーが使用するシステムに合わせて、複数のコントローラーのグラフィックを切り替えて見せなければなりませんでした。言い替えると、各プレイヤーのコントローラースキームに合わせた高解像度のグラフィックを、メモリの消費を抑えて管理する方法を見つけ出さなければなりませんでした。
そのため、Unity の Addressable アセットシステムを採用しました。「システムハードウェアのメモリ容量を超えてしまうと、ゲームがメモリを割り当てられなくなり、クラッシュしてしまいます」と Kolencheryl 氏は認めます。「チュートリアル中に出会う可能性のあるすべてのコントローラー設定に対応した高解像度テクスチャを載せる余裕はありませんでした。そのため、必要に応じてこれらのアセットの読み込みと破棄を行う賢い方法が必要でした。Unity の Addressable システムは、まさにこの問題を解決するものでした。」
プレイヤーがシーンを離れると、このツールがアセットを引き取り、システムのメモリから破棄して、次のスパイ活動のシーンの分のメモリを空けるのです。
ビデオゲームには何十万ものアセットが含まれており、その中には開発者が調整可能な追加設定を持つものも多くあります。Unity の Preset Manager を使えば、エディターにインポートしたアセットにあらかじめ定義した値を適用することができます。
「Unity のプリセットを使えば、ゲームアセットにカスタムのデフォルト値をあらかじめ設定しておくことができます」と Kolencheryl 氏は言います。「このシステムでは、テクスチャ解像度、テクスチャ圧縮、オーディオ圧縮、オーディオビットレート、プレハブなどのデフォルトのインポート値を、プラットフォームごとにコントロールすることができます。この機能により、これまで手作業で行っていた作業が削減され、ミスの少ないアセット管理が可能になりました。」
VR が広がり続ける中、Unity は Schell Games のようなスタジオがこの広大な分野を進んでいく手助けができることを誇りに思っています。
「Unity のおかげで VR 開発のワークフローが効率化されました」と Kolencheryl 氏は断言します。「VR はまだ完全に成熟していないメディアであり、急速に進化し続けています。Schell Games は、この進化の一翼を担えることを非常に誇りに思っています。Unity は私たちが現在のような制作活動を続けていく上で、大きな役割を果たしてくれました。」
Schell Games の『I Expect You To Die 2: The Spy and the Liar』は、Steam、Oculus Quest、Oculus Rift、PS VR 向け PlayStation™ Store から入手することができます。